2024年1月期に放送された日本テレビ系の連続テレビドラマ『厨房のありす』。
自閉スペクトラム症(ASD)の料理人・ありす(門脇麦さん)が主人公。彼女が営む料理店に集まる人々とのハートフルなふれあいや、家族にまつわるミステリーを丁寧に描いた人間ドラマでした。
一般社団法人チャレンジドLIFEは、取材協力という形で制作に参画。
2024年6月に行われたオンラインイベントでは、プロデューサーの鈴間広枝さんをお迎えし、『厨房のありす』の制作の裏側や、自閉スペクトラム症を描く上で意識したこと、そしてドラマを通して伝えたかったメッセージについて語っていただきました。
まずは企画について、「コロナ禍以降、個人のもつ生きづらさをオープンにできる社会になっているように感じています。そんな人を元気にできるようなドラマがつくりたかった」と鈴間さん。
「生きづらさを持っている人の中でも、ASDの人は一見ハンディキャップを抱えていることがわかりづらいですよね。それがわからない他者から距離を取られ、本人は傷ついてしまうことも。それでも諦めずに人と繋がろうとするありすの一生懸命さや、また彼女だけでなく日々いろんな悩みを抱えている人も描きながら、気持ちに寄り添い理解を広げられたらと考えました」。
ASDやゲイなど、様々な背景を持つキャラクターが登場するなかで、「説教くさくならないように意識した」とも。デリケートなテーマを扱いながらも、観ていて楽しくなるドラマにしたい。しかし、ASDに関する描写には心を砕きたい――そんなこだわりを込めたと鈴間さんは語ります。
トークの中では、チャレンジドLIFEスタッフの子育てのリアルな体験が、ドラマの中のさまざまなエピソードに取り入れられていたことなどが語られました。
鈴間さんは、ドラマプロデューサーになる前は情報番組のディレクターをしていたとのこと。
「取材対象者の本当に困っていることを真実の形で伝えようとすると、どうしてもヘビーになってしまったり、プライバシーの観点から伝えきれないことがあったりするんです。しかしドラマというフィクションの形にするからこそ、もっともヘビーなこともまっすぐ描けるのかな、と思っています」。
『厨房のありす』の制作を終えたいま、「多様で優しい社会」を実現するためにどうすればいいのか。
鈴間さんは、力強くこう答えてくれました。
「やはり、一人ひとりを知ろうとする姿勢が一番大切だと思います。このドラマはある種理想の世界であり、『現実はここまで甘くない』と思われる方もたくさんいたのではないでしょうか。それでも、その理想を具体的なイメージとしてお届けするのが私たちの役目だとも思いました。その世界を知ることで、さまざまな方への理解が深まったり、行動を起こせるようになったりと、現実も少しずつ変わっていくのではないかなと。そんな一助になれていたらうれしいです」
実際に、ドラマに対して当事者の家族から「子どもがASDで子育てに悩んで不安に思っていたけれども、ありすを見ていると未来を明るくイメージできて救われた」といった反響があったそう。
『厨房のありす』によって、ASD当事者や周囲の人々がより安心して生きられる社会へ一歩近づくヒントを提示されたのではないでしょうか。
『厨房のありす』で描かれた「多様で優しい社会」に近づくことへの期待感を漂わせながら、オンラインイベントは締めくくられました。
(取材協力:ライター 栞田 萌さん)